私がまだ中国足心道治療センターの副院長だったころの話です。
とにかく、毎日毎日、他人の足を触り、施術する日々を送っておりました。
クライアントさんは、圧倒的に女性が多くて、そうですね、8割くらいは女性だったと思います。
そんなことで、女性の足の反射区を施術していたわけですが、色んな体験をさせてもらいました。その中の一つが『やっぱり子宮と卵巣の反射区は良く効くなぁ』ということ。
特に子宮の反射区というのは面白くて、子宮の状態がそのまま反射区に現れる事が多いのです。
例えば、子宮の反射区に凹みが感じられると、その人の子宮は摘出されて、すでに存在しなかったりするわけ。
これが結構な確率で当たるんですね(百パーセントではないのですけれども)。
あるとき、子宮の反射区をどう触ってもしっかりとした凹みがある女性に出会いました。ここまでしっかりした凹みがあるならば、これは子宮を摘出しているに違いないと思いましたので、その旨を指摘したんですね。
すると・・・『子宮はあります』というではないですか。
(あらっ、そうか、やっぱり百パーセントの的中率ではないな)と。
ところが、次にそのクライアントさんが言った言葉が印象に残っておりまして・・・印象に残っているどころか、人生が少し変わったくらいのインパクトがあったのです。
曰く『でも乳房を摘出しています』
(えっ、乳房がない?乳腺がないということか・・・う~ん、これは子宮となにか関係あるのかな?)
たまたま偶然なのかもしれません。しかし、摘出側の足の反射区だけに凹みがあるんですね。単なる偶然とも思えないので、そのことはシッカリ頭に入れておきました。そうこうしているうちにまた同じような症例があって、どうも関係がありそうです。
経絡にも興味を持っておりましたので、調べてみると、子宮の反射区のど真ん中に「脾経」という経絡が流れています。この経絡は足から卵巣に入り込んで、乳房の外側に出ている経絡なのです。さらに脾経と陰陽関係にある「胃経」は乳房のど真ん中(乳首)を走行しており、脾経と胃経が合わさり乳房支配がなされているという経絡的な構造をもっていることが分かりました。
そうか・・・脾経が子宮の反射区のど真ん中を走行しているのならば、乳腺と全く無関係というわけでもないのか。しかし、そのときは、しっかりした確信はありません。
その後、私は中国足心道の母体になった台湾式リフレの学校に移籍したのですが、会社の方針によって台湾の本部に研修に行かされました。
あまり気が進まなかったのですが、会社命令ですしね。今更、台湾で何を習うんだと、嫌々ながらも出発したわけでした。ただし、気になっていた子宮と乳腺についての見解は一番偉い人に聞いてみようと思ったのです。
なんせその会社は台湾の足揉みのトップを神様扱いしておりまして、足揉み世界一みたいな位置づけです。
眉唾ものですが、一応、聞いてみるかというノリで、台湾に行きました。
全部で12日間の研修の中で感じたのは、ディスるわけでもなんでもないのですが、トップも含め実戦経験がないなぁ、という正直な感想です。
私は直江先生のもと3年間びっちり足揉みに明け暮れており、しかも、みな病気持ちです。半端な気持ちで来るクライアントさんなんて居ません。その中で、悩み苦しみ、切実に施術を続けてきました。慰安系の足揉みを50年やったところで、中国足心道時代の3年間の中身の濃さには勝てないと思いますよ。
勿論、直江先生の施術数と実績がもっとも多いと思います。おそらく日本では一番でしょう(世界一かも)。その次くらいに私が来ると思います。
そういう自信からだと思うのですが、直江先生は結構、他の足揉み流派をバカにしているところがありまして(笑)、私も台湾研修に行った際、その気持がよく分かりました。
それはともかくとして、大した期待もできないな、と思いつつも、聞いてみました。
こうこうこういう症例があって、こういう風に感じたのですが、そういうことってありますか?あるとすれば、どのような機序が働いているのでしょう?
予想通りというか、残念な答えでした。
言下の元に「あり得ない!子宮と乳房では距離的に遠すぎる!」
いや~あのね、子宮と乳房が近い距離にないということくらい誰でも知ってるって!バカにするな!実践経験が少ないのだったらば、そこにどのような可能性があるのか、調べてみるという誠実な姿勢こそ、トップに求められているんじゃないの?ま、自分の面子を最大に重んじる人達ですから、そんなことを期待するほうがバカなんですけどね。
期待通り(?)、満足いく答えではなかったので、結局、自分でもう一度、経絡的な構造以外で説明できるものはないか、と調べることにしたわけです。
ネット検索ができる時代ではなかったので、本屋さんや図書館通いで、ようやく道筋が見えたときは嬉しかったですね。
結局、ホルモンが答えでした。
脳下垂体から「オキシトシン」という愛情ホルモンとか幸せホルモンとかいわれているホルモンが出ておりますが、このホルモンの受容体がある組織が乳腺であり、子宮なのでした。
乳腺がそのホルモンを受け取ると、乳汁分泌という現象が起きますし、子宮がそのホルモンを受け取れば、子宮口が開くという出産の準備に入ります。
つまり、産科系特有の現象はオキシトシンというホルモンの作用機序によって引き起こされるわけです。
ですから、乳腺も子宮も同じホルモンの受容体があることから、同じ系統であることが分かるのです。
※現代においてはオキシトシンの働きなんぞは常識的ですので知っている人も多いと思いますが、当時は、一般人で知っている人なんて居なかったと思います。
ここに至って、子宮摘出と乳房摘出がホルモン受容体という共通項によって同じ意味を持つということが理解できました。最初に疑問を持ってから実に10年近くかかっています。今ならネット検索でヒョヒョイのヒョイで、あっという間に検索できるのでしょうが、逆に色んな意味で手間暇がかかるという時代であったからこそ、その周辺の生理学的知識も身に付いたわけで、それはそれで良かったと思っております。
経絡的な構造から考えても、生理学的な意味から考えても乳腺と子宮は極めて近いものであって、子宮の反射区の凹みが乳腺摘出の徴(しるし)と考えても、なんら問題がないということが分かりました。
逆にいうと乳腺、乳房異常は「胸部」や「胸部リンパ節」の反射区よりも子宮の反射区が功を奏する場合があり、当該適応症についてはそれを重視するという考え方も成り立つわけです。
ですから、乳腺炎とか乳汁の出が悪いとかいう症例の重点反射区は、胸部ではなくて子宮であることが多いのです。
産後プログラムにおいて足心道を利用している方は、ちょっとそのことも頭にいれておいたほうがよろしいのではないでしょうか。
※文中に出てくる経絡は、鍼灸などで使う古典経絡ではなく、手技療法家のために考案された増永経絡を参考にしております。