今回の寄稿では、基本的なことをお話したいと思います。

「身体が資本」とはよく言ったもので、自分の身体が傷んでいると、良い施術ができません。傷み具合によっては、良い施術どころか施術そのものができなくなることもあるでしょう。

気をつけていても、風邪くらいは引くでしょうし、体質によっては病を得てしまうこともあるかもしれません。しかし、施術が原因で自分の身体を傷めてしまっているというならば、これはもう本末転倒で、いくら人の身体を癒す高尚な仕事とは言え、少し考え直さなければいけません。

そんなことで、施術で身体に負担をかけすぎて、身体を傷めてしまったという質問がここのところ続いたものですから、一言述べておきたいと思い、記することとしました。

まず代表的なものとしては指でしょうね。指、特に親指を傷めるというケースが多いと思います。

というわけで、今回は指の酷使についてのお話をさせて頂きます。

私も実は、足揉みをやりはじめたころ、指を傷めて、酷く苦労したことがあります。

何度か公式な場、あるいはブログ等で述べているのですが、私は日本で初めて“温泉足揉み”というものをやった人間なんですね。

その頃はまだ、直江先生は店を持っていなかったと思うのですが、すでに中国足心道を名乗っていました。縁があって、後に直江先生の仕事に参加することになるのですが、そのときはまだ外部の人間です。

当時、私は独自の流派を名乗っていたわけではなく、ボランティア程度の活動でした。しかし、たまたま湯治温泉の支配人と知り合いだったものですから、その温泉で足揉みをするという話がトントン拍子に進んだのです。

もうボランティアの話ではありません。しっかりとお金を取って施術するわけですから、プロとしてやらなければイケないわけです。

プロならば、それなりの箔付けも必要かなと思いまして(笑)、直江先生に頼んで、中国足心道を名乗らせて頂くことにしました。まだ、学院の設立もなされていませんでしたので、正式に習うということにはなりませんでしたが、名前を借りる以上、その看板を汚すわけにはいかないですよね。

施術は自己流ながらも(こりゃ、一生懸命やらなきゃイカンな!)と自分を戒めたのを覚えております。

幸い、当時は足揉みというのは珍しい分野でもありましたし、湯治客も暇を持て余していましたので、客が来なくて困るということはありませんでした。盛況といってもいいでしょう。

肝心の効果はどうだったかというと、もともと湯治温泉ですから、温泉効果があります。そこに足揉みが加わるわけですよ。しかも懐に余裕のあるお客は毎日のように来ます。当時の私の未熟の技術であっても効かないわけがありません。自分で言うのもなんですが、結構な評判でした。

しかし、技術の未熟さが自分の身体に出てしまったのです。前述したように指です。指、特に親指が痛くて痛くて・・・どれくらい痛かったかというと、箸を使いこなせないくらい痛い。トホホですよね。こんなに傷めてしまって、大丈夫かな、と。待ったなしにお客様も来ます。困りましたね。

しかし、幸いなことに温泉宿での仕事ですから、仕事が終わった後、その秘湯に浸かることができるわけです。

夜中、温泉に浸かりながら、傷めた指を丹念に押圧したり揉んだりして、なんとかかんとか乗り切りました。それでも後々まで、かなり痛みを引きずっていましたね。

後年、足揉みを教える立場になって、この“指を傷める”という現象に酷く敏感になったのはそういうことがあったからです。こういう指使いでやるんだ!というのではなく、その人の個性に応じた指使いを考えてあげるという方向に進みました。自分の苦労した経験を生かしたわけです。

さらに色んな知識が身についてくると、親指には肺経という文字通り呼吸に関係する経絡が流れているということも分かりましたし、また手技に特化した経絡図表では膀胱経も親指を走行しています。膀胱経は膀胱という内臓と関係が深いだけではなく、自律神経を支配する経絡ですので、親指を傷めたままですと、後々、大きな問題が出てくるということも分かりました。つまり尚一層、指の酷使には神経を使うようになったわけです。

指を傷めないコツというものがあるとすれば、自分にとって無理な指使いをしないということが基本になります。指には個性がありまして「反り指」「立ち指」、大きく分けてこの2種類がありますから、それぞれ、その特性の中で指使いを考えていくということになります。

これは、最初、講師から指導されると思うのですが、実際にやってみないことにはピンとこないでしょう。ということでやりながら少ずつ修正をかけていくことになると思います。

次に重要なことは焦らないということです。

焦ると指の角度を間違えてしまって、傷める原因になってしまいます。

指を反射区に当てて、馴染ませてから、ゆっくり入れていく・・・と。

こういうやり方をしますと、フィードバック機能が働いて、微妙な角度の調整を脳が勝手にやってくれるようになりますので、傷めることとは縁遠くなります。

人の足を揉むときは(整体でもそうなんですが)、時間に追われたりするとダメなんですね。良い施術ができないだけではなくて、自分の身体を傷めますから、余裕をもってやらねばならないのです。

これは自分の治療院のときはコントロールできますが、サロンに勤めている場合、稼ぎ時で忙しいときにはほとんど休憩なしに施術を強要されます。

忙しいのは大変結構なのですが、そんな状態が続くと、だいたい3年で燃え尽きますね。整体でも同じです。

今はむしろ暇で困っているお店が多いと思いますが、だからこそ、お客様が入り始めると、ここぞとばかりに詰めて予約をガシガシと入れられてしまいます。

どこかに勤めて足揉みをしている人は、そういう環境に遭遇した場合、その日のうちに身体から疲れを抜かないとダメージが蓄積されてしまいます。

温泉とまではいかなくとも、自宅で湯船に浸かりながら、ゆっくりと手指を解したほうがいいでしょう。

手指の施術は熟練した人にやってもらうのが最高なのですが、いつもそういうわけにはいきませんから、こうした自衛手段を講じるしかありません。

さて、こういう質問も来ました。

指をすでに傷めてしまって痛いと・・・なので棒を使って施術したいのだが、それは中国足心道の理念に反するのか?

私の答えは、棒の施術は“有り”だと思うと。

ただし、棒にキネシオテープとかテーピングに使うようなスポーツテープを巻いて当たりを柔らかくする、ということと、指と同じように反射区に棒を当ててからゆっくり入れていくという条件付きです。※もちろん、全部をテープで巻く必要はなく、棒の部分を残しても構わないのですが・・・そうしないとフリクションをかけられませんからね。

棒を使うと楽をして施術しているような感じを受けますが、実は難しいのです。

指だと、そこに神経がたくさん集まっていますから、反射区の状態とか入り方とか、そう情報がたくさんフィードバックされてきます。脳はそれを処理し、圧加減やら深さやら、あるいは“入った感じ”を無意識に決めていて、それが全体として、施術家にも満足感を得さしめるわけです。

ところが棒はどうでしょうか。

棒に神経が通っているわけではありませんから、微妙なフィードバックが利きません。そうすると施術に不全感が起きてしまって、いつまでたっても素人っぽさから抜け出せないという事態に陥ります。

ですから、棒を使っても、当たりが柔らかく、それでいてしっかり反射区の底まで入ってくると・・・つまりクライアントはまるで指で施術されている感じに受け取ることができる施術にしなければなりません。そして微妙なフィードバックは棒を握っている自分の手そのもので感じ取っていくわけです。こういうレベルまで達するには熟練が必要なのですね。

棒使いは横着者のやり方だという考えは捨てたほうが良いと思います。

(確かにそういう棒使いは多いのですけども)

どうせ棒を使うなら、指となんら変わらない感触をクライアントに与えつつ、かつフィードバックも棒を通して自分の手で感じ取ることができるというレベルを目指してやるべきだと思います。

私自身は、初期の頃を除いて(温泉宿時代)、指が痛くなるという段階はとうに超えていますので、棒を使う機会はありませんでした。

じゃ、なんでそんなことが分かるの?ということなんですけれども、実は最初から棒を使う方法で教えたことがあるのです。

というのは、その方、生まれ付き指が凄く弱くて、(この人、慣れても鍛えてもしっかり底まで入れていくのは難しいのではないか?)と思ったからです。

最初はやっぱり棒特有の硬いものが当たってくる感じで(やっぱ指の感触とは違うなぁ)という感想でした。

ところが、その方、大変な努力家でしてね。言われたことを一生懸命練習したのでしょう。

指か棒か、どっちを使っているのか判別できないほど上達しました。

いやはや、期待以上だ!と。

後年、なんと、整体まで習って、それも棒を使うのですよ。

びっくり。

整体で使う棒は足揉みで使う棒とはちょっと違う形状をしていますが、棒は棒ですよ。

整体もまるで指で圧されている感じでした。

それで思いました。人間の持っている可能性って凄いな、と。

そんな経験を持っているので、“棒も有り”という結論になるわけです。

指が基本になりますが、どうしても生来の指の弱さがネックになって、施術に集中できないというならば、こういう道を目指してもいいのではないかと思います。

以上、指の酷使に対する対応、棒を使うことの是非、などを経験を交えてお話させて頂きました。

次回は足揉みという特有の施術形態によって起きる身体の不都合とその予防についてお話したいと思います。